ソーシャル・キャピタルの定義を整理してみる


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ソーシャル・キャピタルという言葉は、日本語にすると主に、社会関係資本と訳されます。
これは直訳の「社会資本」とすると、日本ではインフラを想起させるためと言われています。

では、この社会関係資本とは何なのか。
様々な定義があり、一本化された定義はありません。

しかし、いくつか有力な定義が出されているので、そこから整理してみたいと思います。

ソーシャル・キャピタルの定義

-R.パットナム

人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を改善できる、信頼規範ネットワーク*1といった社会組織の特徴

-F.フクヤマ

信頼が社会全体あるいは社会の特定の部分に広く行き渡っていることから生じる能力

-世界銀行

SCとは、社会的なつながりの量・質を決定する制度、関係、規範である。社会的つながりは経済の繁栄や経済発展の持続に不可欠である。SCは単に社会を支えている制度ではなく、社会的つながりを強くするための糊の役割を果たしているのである。

-OECD

規範や価値観を共有し、お互いを理解しているような人々で構成されたネットワークで集団内部または集団間の協力関係の増進に寄与するもの

-W.ベイカ

個人的なネットワークビジネスのネットワークから得られる資源であり、情報・アイデア指示方向・ビジネスチャンス・富・権力や影響力・精神的サポート・善意・信頼・協力

-P.ブルデュー

多かれ少なかれ制度化された相互面識および相互承認持続的ネットワークの所有、あるいはいいかえると、全体で所有する資本の支援を各メンバーに提供するような集団のメンバー資格に結びついた現実的あるいは潜在的資源の総体

-J.コールマン

それが存在しなければ不可能であるようなある種の目的の達成を和にする
他の形質の資本とは異なり、ソーシャル・キャピタル人々の間の関係の構造に内在するもの
個人や生産の物理的装備に備わっているものではない

-ナン・リン

市場における見返りを期待してなされる社会的関係への投資
社会的構造のなかに埋め込まれた資源
目的とをもった行動のためにアクセスされ動員されるもの

-A.ギデンズ

個人が社会的支援を得るために頼ることのできる信頼ネットワーク

■雑感

まず目につくのはやはりパットナムが定義した3つの側面「信頼」、「規範」、「ネットワーク」です。

アスレイナーはこの中で、信頼に着目しました。


しかし、いずれの定義を見ても、実はネットワーク(人々の間の関係等)が共通していることがわかります。

ネットワークという人と人との関係性が前提としてあり、その上に信頼や規範といった側面の強弱が加わるのかな。
場合によっては経済的成長、経済効果への投資、といった側面を考えている人もいるようです。


自分の関心としては、ソーシャル・キャピタルが地域の活性化に資するか、どのように培養できるのか、地域への愛着や誇りはどのようにすれば育まれるのかという視点で出発しています。
そうすると、なんとなしに経済効果というような側面は弱いのではないか、と考えます。

こう考えると、果たして「ソーシャル・キャピタル」という言葉自体がよくない、という考え方もあります。
実際、ボウルズとギンティスは、ソーシャル・キャピタルのアイディアは良いが、用語としてはよくないと言っているようです。

しかしボウルズ=ギンティスは,ソーシャル・キャピタルはアイデアとしては良いが,その用語は良くないという.キャピタル(資本)とは所有できるものをいう言葉であるが,ソーシャル・キャピタルは人々の間の関係を意味するとされているからである.
ソーシャル・キャピタル』,P.16,宮川公男

ソーシャル・キャピタルというものを考えるにつけ、これは一体何なんだろうという思いに囚われてしまいます。


ところで、キャピタルというものはボウルズ=ギンティスが言うように所有できるものと見做すことはできますが、一方で、こう考えることもできるのではないでしょうか。


つまり、キャピタルとは「貯蓄可能なもの」(蓄積)であると。


そう考えると、ソーシャル・キャピタルというものが「キャピタル」という用語であることに不都合はないかなと思います。
むしろ、ソーシャル・キャピタルという用語ではなく、やはり何なのかがわかりにくいことが問題点であると。


やはり僕はネットワークからソーシャル・キャピタルを考えてみたいと思います。


それでは、また!

*1:オレンジの字は「ネットワーク」または「ネットワーク」に準ずる側面